『超富裕層に「おもてなし」は いらない』 著者/高橋克英 評者/橋本みな
2026年6月号 連載 [BOOK Review]
「おもてなしはいらない」という挑発的なタイトルであるものの、おもてなしを万能視せず、富裕層にとって何が本当に必要なサービスなのか、自己陶酔に陥っていないか、という指摘には、確かにそうかもと気づかされた。
特に海外富裕層は「おもてなし」を求めて日本を訪れるわけではない。
海外のお金持ちは、おもてなしの代表とされるJALやANA、帝国ホテルなど日本の高級ホテルではなく、アメリカンやユナイテッドなど自国の航空会社、ハイアットやリッツ・カールトンなど外資系ホテルをなぜ好んで選ぶのかも明らかにされている。
半信半疑で読み始めたが、気づけば「そうだ」と納得してしまう内容も多かった。理由は単純で、私自身が税理士や経営コンサルタント会社代表として、日々接しているいわゆる富裕層の方々の言動とお金の使い方が、本書の内容と驚くほど一致しているからだ。
彼ら彼女らは「人と同じ」を嫌い、時間を何よりも重視し、無駄な説明や形式的なサービスを好まない。一方で、信頼できる仲間やネットワークは極めて大切にする。この一見矛盾するような振る舞いは、普段から感じられていたものの、明確な言葉として整理できていたわけではない。本書はそれを6つの特徴として提示し、読み手に「だからこう見えるのか」と納得させる。特に具体的な示唆を与えてくれるのが、いまや世界的なラグジュアリーリゾートとなった北海道ニセコの事例だ。ここで語られているのはラーメン一杯3千円や不動産投資の成功談ではない。なぜニセコだけが国内外の富裕層に選ばれる世界ブランドになったのかを、5つの視点から徹底的に解説してくれる。
パウダースノーという圧倒的な強みを軸に、ターゲットを富裕層に絞り込み、外資系高級ブランドホテルやホテルコンドミニアムなど巧みな設計により、「投資が投資を呼ぶ好循環」が生まれているという。「官主導ではなく、民主導であるか」という視点の検証は、観光だけでなく半導体など他の分野でも言えそうだ。
こうした過程で生じる地域での摩擦や課題にも目を向けつつ、ニセコは価値の最大化に成功している。これは企業のマーケティングにも、そのまま応用できる視点だと感じた。「幕ノ内弁当」的な、誰にでも開かれたサービスではなく、「この人にだけ刺さる」設計ができているかどうか。一方で「第二のニセコ」とも呼ばれる白馬や富良野、宮古島や妙高などでは地価高騰が続いているものの、まだ足りないピースがあることも浮き彫りにされている。
世界的な金融緩和による「カネ余り」やAI革命がもたらす「働かなくてもいい時代」「退屈でひまな時代」「消費から投資中心の社会へ」といった大きな構造変化にも触れられており、富裕層の増加と雇用の変化という流れが一過性のものでないことも示されている。富裕層が何を考えているのか、何におカネを使っているのかを知ることは、金融・不動産・サービス業など富裕層にタッチポイントを持つ業種の方々や、株価高騰に引き寄せられ投資の入り口に立つ方々にもヒントになりそうだ。
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