ナフサ製品「売り惜しみ!」/レアアースは「ない!」/報じられない「町工場パニック」

ナフサやレアアースが手に入らない。高市首相の「大丈夫だ」発言に現場の怒り爆発。

2026年6月号 DEEP

高市首相の発言は現場感覚と大きく乖離している

Photo:Jiji

「ものづくりの現場はパニックだ。政府は何の理由もなく『大丈夫だ』と言うばかり。大企業だけ見て政策を決めないで、ちゃんと現場を見ろと言いたい」

技術が流出しても仕方ない

強い調子でこうまくし立てるのは東日本の工業団地に本社を置く素材加工メーカーの社長だ。年商は10億円規模で町工場としては決して小さな規模ではない。それでも、日本各地でナフサ不足が顕在化するなかで、大手メーカーからの強烈な売り惜しみに直面しているという。

4月以降常態化しているナフサ製品の値上げのやり方は突然だ。不足が問題になったシンナーについては、ある日突然、従来価格から倍額への価格変更を言い渡されたという。「長年の得意先にいきなり、その価格はないだろう」と反駁すると、「値上げを呑むなら(シンナーを)出すが、呑まないならもう出さない」との返事が返ってきた。

高市早苗首相はシンナーの品不足や価格高騰が報道されたことを受け、4月30日に「ナフサ由来の化学製品の供給は年を越えて継続できる見込みだ」と説明した。ところが、シンナーなど塗料関係製品の目詰まりはなお続く。「塗料関係だけではない、ボンドも不足している。フィルム関連素材、さらにスポンジ材も3割を超える価格上昇を呑めと言い出した」。主にナフサ成分の含有量の高いモノが最初に大幅値上げ、欠品の対象になっているという。

大手素材メーカーの地域担当者に聞くと、急な大幅値上げは「一部の顧客によるまとめ買いを防ぐため」だと回答した。それでも多くの町工場が「従来と同じ量しか注文していないのに、入ってこない」「年間契約を結んでいるのに、突然、値段の引き上げを要求された」とブーイングの声を上げていることへの答えにはならない。さらに問いを投げかけると、「本社からの指示に従っているだけだ」と、あとは逃げの姿勢に徹した。

別の塗料メーカーの営業担当者にも「売り惜しみをしているのではないか」と聞くと、「結果的に、そう見られても仕方がない」とした上で、「結局、得意先を守ろうとする営業担当者は板挟みになって苦しくなって辞めてしまう。会社に評価されて残るのは、『オレが、自分が』という営業マンだけ。その結果、『自分さえよければいい』に会社全体がなってしまう」と惨状を吐露する。

現在、町工場で不足が顕在化しているのはナフサ製品ばかりではない。高市首相の台湾有事発言を契機とした中国との関係悪化により、レアアースの輸入量が急減しており、関連物資の調達も予断を許さない。とくに、供給量の不足が言われ始めているのは、中国が圧倒的な世界生産シェアを握るイットリア(酸化イットリウム)を使った製品だ。

現在、世界の市場で売買されているイットリアの9割以上が中国産とされ、日本も多くを中国に依存してきた。イットリアは耐プラズマ性が高く、レーザー兵器やミサイルの命中精度を高めるために使われる、最新鋭の軍事兵器に必要不可欠な物質だ。一方で、本来割れやすいセラミックに添加剤として入れると割れにくくなる働きを持つほか、プラズマ耐性の高さから半導体製造装置には欠かせないデュアルユース(軍民共用)の代表的な物質でもある。

このイットリアの中国からの輸入量が25年に約11%減少した。中国政府が1月に日本向けのデュアルユースの輸出を大幅に制限する措置を発表すると、この傾向はさらに強まった。

「セラミック製品の製造に、イットリアはどうしても必要な素材。このまま入ってこなくなれば、国内生産は続けられない」とこぼすのは、東日本に生産工場を持つ半導体回路基板のメーカーだ。同社は現在、中国企業と提携し、中国国内に工場を建設することを検討し始めている。「製品が作れなければ、会社が潰れてしまう。中国に技術流出してしまうとか言っていられる状況ではない。原料が近くにあり、顧客も近くにいるところで製造することは当然だ」と意に介さない様子だ。

政府はレアアースの中国の輸出制限に対して、他国からの輸入で代替することで影響を最小化したい考えだ。しかし9割以上を依存していた国からの供給が急減した影響をすぐに補うのは困難だ。南鳥島近海の深海からレアアースを含有した泥が回収できたことが話題になったが、仮に事業化できたとしても10年はかかる話であり、当面の国内のものづくりへの打撃は避けられない。

ナフサ製品の不足・価格高騰と、レアアースの輸出規制による影響を大きく受けるとされているのが、半導体業界だ。大量の化学製品を消費する半導体製造の過程では1つでも調達網に乱れが生じれば、安定的に製造を続けることは難しくなる。

製造装置の心臓部にはイットリアだけでなく、セリウムやランタン、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアースも欠かせない。これらもすべて、世界生産の9割以上を中国が握る。

匿名を条件に取材に応じたある半導体向け素材メーカーの研究責任者はナフサ製品とレアアースの不足が続けば、日本経済の強みとして残されてきた部分に決定的な打撃を受けかねないという。

「半導体の製造装置や素材分野は日本の企業がなお世界でリードを保ってきた分野だ。しかし、海外に頼る原料の安定した調達が困難になれば、製品の供給はおぼつかなくなる。調達面から製造拠点を海外に移す企業は増えていくだろう」

高市首相は「日本列島を、強く豊かに」をスローガンに、海外に流出していた製造拠点を国内に回帰させ、製造業を強化することを政策として掲げている。足元の製造現場で起きているのはむしろ逆の動きだ。中小の町工場は素材の供給制約に疲弊し、必要な製品の製造を続けられるかの瀬戸際にある。中国との対決姿勢を崩さない頑なな態度は、再度の技術流出と空洞化の誘因にもなっている。

太平洋戦争時と似ている

前出の研究責任者はこう警鐘を鳴らす。「ものづくりの現場に悪影響が広がっているのに、誰も課題認識ができていない。もっとも、この現実が国民にほとんど伝わっていないことにも危機感を覚える」

現場の状況が国民にも、首相官邸にも届かぬまま――。太平洋戦争では戦地の惨状が覆い隠され、現実離れした勇ましいスローガンだけが繰り返された。モノづくりの現場から上がる悲鳴は、80年前の日本とどこか雰囲気が似てきている。

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