消費税減税「農協まで反対」!/「聞く耳」持たない高市首相に付ける薬

2026年6月号 BUSINESS

社会保障国民会議で「食料品の消費税ゼロ」公約実現の決意を示した高市首相(官邸HPより)

高市早苗首相が意欲を燃やす消費税減税を巡り、政府・与党内から猛烈な逆風が吹いている。飲食料品に対する消費税減税と給付付き税額控除を議論する超党派の国会議員の「社会保障国民会議」で消費税減税に対する慎重論が噴出し、与党内でも「減税は見送るべきだ」との意見が急速に強まっているからだ。

特に経済界からは経団連や日本商工会議所などの経済団体だけでなく、農協も減税に反対する姿勢を示しており、減税推進を掲げる与党議員は少数派に陥っているのが現状だ。

しかし、高市首相は今でも消費税減税の実現に執念を見せており、首相周辺は反対論の封じ込めに躍起となっているという。減税に伴う小売店のレジシステムを改修するには1年近く時間がかかるとされたが、首相周辺からは「税率を1%に設定すれば、消費税減税の早期実施は可能だ」との奇策も飛び出す始末だ。国民会議が結論を出す6月中旬に向け、両者の攻防はさらに激化しそうだ。

地方選出議員に「反対の陳情」

JA全中の神農佳人会長(会見動画より)

4月下旬に国会内で開催された国民会議傘下の実務者会議は、与野党の幹部が飲食料品を対象とした消費税減税について、外食産業や農林水産業などの関係団体から意見を聴取した。出席した全国農業協同組合中央会(JA全中)の幹部は与野党議員を前に「食料品の消費税がゼロになれば、農家の経営が圧迫されかねない」と強い懸念を表明した。

農家は売上高が年1千万円以下で消費税を納めていない免税事業者が多く、そうした農家は農作物を販売する際の消費税率がゼロになれば、仕入れにかかった消費税の控除が受けられない。農家が仕入れ時に払った消費税の還付を受けるには、インボイス(適格請求書)を発行する課税事業者に転換し、税務当局に税務申告する必要があるためだ。この仕組みは零細な飲食店も同じである。

会合に出席したJA全中幹部は「仕入れ時にかかった消費税の還付を受けるため、零細農家や兼業農家に課税事業者への転換を働きかけるのは現実的には難しい」と訴え、高市政権が検討を進める消費税減税の実質的な見送りを求めた。

これまでも経団連や日本商工会議所などの経済団体は、国民会議傘下の実務者会議や有識者会議に呼ばれて意見を求められた際には、小売現場の混乱やレジシステム改修などに時間がかかるため、消費税減税には反対する考えを示してきた。ただ、農業関係者からの意見聴取は初めてであり、同日の会議には農水省出身の鈴木憲和農水相も出席し、「現場の声に耳を傾け、前向きな制度設計の検討を進めて頂きたい」と与野党議員に呼びかけた。

このJAからの意見聴取は自民党内に大きな波紋を広げた。産業界は消費税減税に反対することで足並みを揃えているのは広く認知されていたものの、減税が農家の経営にも深刻な打撃を与えることはあまり知られていなかったからだ。それだけに農水相自身も出席して与野党議員に慎重な対応を求めた。

自民党関係者は「JAは今後、地方選出の国会議員にも減税反対に向けて陳情に回ることにしている。これで減税反対の動きが一気に加速するだろう」と予想する。

高市首相は今年2月の衆院選公約で①中低所得者を支援する給付付き税額控除を日本でも導入する、②制度が導入されるまでの2年間に限り、飲食料品に対する消費税率をゼロにする――を掲げた。

衆院選に勝利した高市首相は、制度導入に向けた議論を深めるために与野党議員で構成する国民会議を設置。その下部組織として実務者会議と有識者会議という2つの会議体を設け、それぞれ具体的な検討を進めている。

実務者会議には与野党の税調関係幹部が出席しているが、もう1つの有識者会議は財務省が事務局を務める政府税制調査会の委員が多く参加している。有識者会議委員の翁百合・日本総研シニアフェローは政府税調会長を兼務しており、複数の政府税調関係者も名前を連ねている。そこではつなぎ措置としていた消費税減税は見送り、簡易型の給付付き税額控除の早期導入に向けた検討が始まっているという。

この簡易型とは、税額控除は当面実施せず、まずは給付に限定した形での給付付き税額控除のことを指している。歴代の自民党政権が実施してきた低所得者向けの現金給付を子育て世帯などの中所得者向けにも拡大し、税額控除はその後、時間をかけて改めて制度を検討するという先送り案である。政府関係者は「一応、形ばかりは給付付き税額を導入したことになり、つなぎ措置の消費税減税を見送る口実になる」と明かす。

有識者会議は経済界を中心に意見を聴取したが、そこでも経団連や日商が消費税減税に対する懸念を表明した。企業にとってみればここ数年、高い水準の賃上げを実行する中で、労使が折半する社会保険料の負担が重くなっている。年金や医療、介護などの社会保障財源に充てる消費税を減税した場合、さらに社会保険料が引き上げられる恐れがあり、経済界はこぞって反対する姿勢を見せている。

そうした中で経団連が簡易型の給付付き税額控除を提案し、政府内でも水面下で検討が始まった。経団連関係者は「簡易型であれば、来年春からでも導入できる。そうすれば消費税減税を実施せずに済むはずだ」と指摘する。実際、意見聴取に呼ばれた経済団体や業界団体からは「今はイラク情勢に伴うインフレのさらなる加速が懸念されている。そうした時期に混乱必至の消費税減税を強行すれば、支援が必要な中低所得層はかえって苦境に陥る」との合唱が起きている。

「聞く耳」持たない高市首相

小野寺五典自民党税制調査会長

こうした動きに対し、身動きが取れずに苦しい対応を迫られているのが、高市首相側近の木原稔官房長官や国民会議の取りまとめ役の小野寺五典自民党税調会長である。特に小野寺氏は消費税減税の実施に向け、首相から直接指示を受けたが、業界団体や党内から減税反対の声が渦巻き、調整は難航している。

何よりも問題なのは、国民会議で議論を尽くせば尽くすほど、消費税減税の問題点が明らかになる中で、肝心の高市首相が今もなお減税に固執する姿勢を崩していないことだ。このため、首相側近も国民会議を通じて寄せられた経済団体や業界団体などの厳しい意見を首相には伝えられていないようだ。

首相周辺は「衆院選で大勝した首相は秘書官を含め、自分と異なる意見を全く聞こうとしない」としており、官僚からのレクチャーもほとんど受け付けない状態だという。これでは政治リーダーとして正しい情報を得ることはできないだろう。

こうした中で急浮上しているのが、飲食料品に対する消費税率をゼロにするのではなく、1%に設定するとのアイデアだ。これは業界団体に対する意見聴取の中で出てきたもので、「1%に設定すれば、レジシステムの改修にあまり時間はかからない」との指摘が寄せられたという。このため、首相周辺や官邸官僚が具体化に向けた作業を進めている。それでも事業者や国民に対する周知を図る必要があり、来春からの実施は難しいという。政府関係者は「減税を実施するとしても、実際には来年秋になるのではないか」との見方を示している。これでは物価高対策としてあまりに遅すぎる。

飲食料品の消費税をゼロにすれば、1年で5兆円の財源が必要となる。燃料高騰や円安進行で物価高が進む中、その5兆円は低所得者などの生活困窮者に対し、手厚く迅速に給付した方が政策効果は高い。ばらまきではない合理的な判断が問われている。

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