令和の「富国強兵」/超一強「高市ブーム」はいつまで続くか/芹川洋一・コラムニスト

政治の進め方は首相主導になり、政策の方向は「日本列島を強く豊かに」の公約そのままに「富国強兵」だ。

2026年4月号 POLITICS [流行り物は廃りもの]
by 芹川洋一 (政治コラムニスト)

  • はてなブックマークに追加

高市首相の施政方針演説(2月20日、官邸HP動画より)

衆院選での自民党の歴史的圧勝で日本政治の枠組みが変容した。パラダイムシフトである。衆院の3分の2を一党だけでおさえ、強い力を持った高市早苗政権は国会や官僚機構との向き合い方を変化させつつある。政治の進め方は超一強の首相主導になり、政策の方向は「日本列島を強く豊かに」の公約そのままに「富国強兵」だ。高市の個人的な人気を背景とした高い内閣支持のもと、政治的な熱狂はいつまで続くだろうか。

「政治は数、数は力」の世界だ。選挙で数をおさえたものに政治的パワーが与えられる。政治リーダー個人によって多数がもたらされたとすれば当人の力はいやがうえにも増大する。だれもが簡単にノーといえない政治空間が広がってくる。高市はそんな地合いの中にいる。令和の女帝的存在による「超一強政治」である。

まず先の衆院選の結果から見えてきた政治状況を確かめておこう。

まるで戦時中の「翼賛議会」

自民党が3分の2超の316議席を獲得した「数」のすさまじさは小選挙区に端的にあらわれている。289議席のうち249議席を占めた。占有率にして86%。31都県で議席を独占した。

得票率は、ほぼ半分の49%でこうした結果になるのが小選挙区選挙だ。2009年の政権交代選挙もまさにそうだった。308議席を獲得した民主党では、小選挙区47%の得票率で221議席を獲得、占有率が74%だった。

自民党が獲得した316議席の議席占有率の68%は、1960年池田勇人内閣での衆院選の63%を上回り、結党以来最高である。公示前勢力が198議席だったから118議席増で、52人がカムバック、66人の新人議員が誕生した。

自民党の圧倒的多数によって、衆院の委員長は27ポスト中2ポストだけ野党にゆずり、予算委員会、憲法審査会など25ポストを与党でおさえた。国会運営は与党主導になる。

昨年の参院選まで、自民党の勢力を削ぐかたちで進んでいた多党化から一党化に転じた格好だ。これが「令和の超一強政治」の第一の特徴である。

第二はリベラルの崩壊である。「昭和リベラル」の終焉と言いかえてもよい。ひと昔前の言い方になぞらえれば革新や左翼の終わりである。日本型リベラルの退潮の方がしっくりくる向きもあるかもしれない。

中道改革連合の旧立憲民主党系(21)や共産党(4)、れいわ新選組(1)が大きく後退、あわせてわずか26議席しかない。

社会党の後継の社民党は衆院ではすでに議席を失っており、今回もまた議席確保はならなかった。社会党以来、自民党に対抗する勢力は新進党、民主党、立憲民主党と看板をかえながら続いて来ていた。その政治パワーがほとんど失せかけている。

第三は「ブレーキ役なき体制」もしくは「チェックなき政治」である。自民党と日本維新の会(36)を保守、参政党(15)を強硬保守といった区分けをするとして、保守派の合計は367議席で全体の79%だ。そこに中道保守の国民民主党(28)を加えれば395議席と85%に達する。まるで戦時中の「翼賛議会」みたいだ。

高市アマテラスは「天岩戸」

アクセル役は日本維新の会(写真はフォロワー276万を誇る高市早苗Xより)

政府・与党の独走状態が予想される。参院はなお少数与党であっても、法案を参院で否決しても衆院3分の2で再可決が可能で、これまでのように法案修正や政策要求などで野党の主張をのむ必要性は全くない。

与党内でも公明党が連立離脱したことで自民党として安全保障問題で穏健な主張にも耳を傾けて妥協することもなくなった。むしろアクセル役を自任する維新に引っ張られるかたちで、より強硬な方向に進む展開も考えられる。

自民党内でも高市人気による衆院選圧勝は誰もが認めるところで、高市と距離のある穏健保守派や財政規律派が高市の進める政策に待ったをかけるような事態は、よほどの政治的失策でもない限り、表面化するとは想定しづらい。

高市の政治スタイルは独特だ。昔からの側近やブレーンがいるわけではない。自ら考え、判断し、実行していくタイプで、一匹狼型の孤高の政治家だ。

側近とされる木原稔官房長官や、経済政策の司令塔役の城内実経済財政相にしても、21年の自民党総裁選に高市が出馬した際、安倍晋三に頼まれて選挙を応援したのが縁でつながった関係でしかない。

衆院解散を決断したときの顚末から分かるとおり、党側と調整しながら事を進めていくわけではない。首相になる前の高市と接触を持った政治家が異口同音に語るのは「頼みごとがあるときは寄ってくるが、済んでしまえばフォローがない」とドライな割り切り型のパーソナリティーでもある。

人間関係に頼らないそうした付き合いができるのは、おそらく高市が自らの能力や見識によほどの自信を持っているからに違いない。

国会答弁にしても官僚の説明を聞くより、答弁資料の束を自ら読み込み、赤のボールペンで直しを入れ、疑問点があればそこだけを秘書官に問いただしているのは霞が関で広く知られるところだ。

組閣時にあたり各閣僚に出した詳細な「指示書」にもみられるように、政策は高市主導で進んでいく。

ある首相経験者と議長経験者が、某省の事務次官以下の幹部クラスを慰労する会を持ったとき、彼らがこぼしたそうだ。

「総理はブリーフィングがお嫌いなようで、わたくしどもの話を聞いていただけません。秘書官から資料をもらうと『ありがとう』といって、総理執務室のさらに奥にある個室に入り、そこにこもって資料を読まれ、秘書官もなかなか会えないようです」

高市アマテラスは「天岩戸(あまのいわと)」状態なのだろう。

別の首相経験者は「ブリーフを受けて、いろんな話を聞かないとニュアンスが分からない。書いたものだけを読んでいると、どこがまずいのか見えてこないから危ない」と独断型を懸念している。

「富国」と「強兵」を押しまくる

そうした中で展開されている高市による「令和の富国強兵」の第一の柱は、トレードマークになっている「責任ある積極財政」である。経済成長で税収を増やし、国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率を下げて、財政の持続可能性を確保するということらしい。とりあえずは落ちついているものの、首相就任後に急速に進んだ円安・債券安の動きからも、この先の財政経済運営によってマーケットの反応は決して楽観できない。高市政権に不信任を突きつける可能性のある、いちばんのものが市場だというのは、関係者の一致した見方でもある。

2月の施政方針演説で「押して、押して、押して、押して、押しまくる」と声を張り上げた成長のスイッチの戦略分野は、AI(人工知能)・半導体、量子、核融合など17分野で、官民連携によって危機管理投資と成長投資を進めるという考え方だ。

「失われた30年」ですっかり萎縮してしまった日本経済をどこまで再生できるのか。族議員の抵抗を排して規制緩和を進め、厳しい国際競争を勝ち抜き、人手不足や技術者不足などの問題をいかに解消していくのか。道筋は容易ではないが、「富国」のためには突き進むしかないという判断だ。

二番目は主に「強兵」だが、「国論を二分する政策」の実行だ。昨年10月の維新との連立合意書に盛り込まれている、安全保障3文書の改定や防衛装備移転の5類型の撤廃がその柱になる。

3文書の改定は、中国をはじめとする周辺国の軍備増強が進み安全保障環境が劇的に変化する中、AIの活用やドローン(無人機)の利用など戦い方も変わってきているのに対応するものだ。22年に策定した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書を1年前倒しして26年中に見直す。当然、防衛費の増額を伴い、その財源問題も出てくる。

成長戦略の17分野のひとつに「防衛」をリストアップ、防衛装備品の輸出に関する規制を緩和して生産増を促すという文脈でも位置づけられている。

現在、輸出できる防衛装備品は「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型に限っている。それを撤廃しようとするもので、自民党安全保障調査会は2月下旬にその旨を盛り込んだ提言をまとめた。3月に入って維新とともに、高市に提言した。政府はこれを受けて今国会中に運用指針を改定する。

5類型の撤廃は、連立を組んでいた公明党の反対で実現できなかったものだが、同党が連立を離脱、新たに維新との連立政権を組み、衆院選による大勝で一気に進んだ。

そのほかスパイ防止法の制定や皇室典範の改正、旧姓使用の法制化なども自維連立合意書には盛り込まれており、こうしたテーマにも取り組んでいくことになりそうだ。

「富国強兵」に向けての動きの第三は憲法改正だ。「国論を二分する政策」の最たるものでもある。衆院憲法審査会の会長に古屋圭司、与党筆頭幹事に新藤義孝を充てた。それぞれ自民党の選挙対策委員長、組織運動本部長から回した。改憲発議に必要な3分の2を衆院で獲得したのを背景に改憲シフトを敷いた。議論を前に進めるのが目的だ。

非常時に国会議員の任期延長を可能にする「緊急事態条項」の新設については昨年、自民党が中心になって改憲の骨子案をまとめている。憲法9条への自衛隊明記を含めて、同審査会に条文起草協議会を設けて調整に入りたい意向とみられる。

改憲発議には衆参両院それぞれ3分の2以上の賛成が必要だが、参院側は与党で過半数に届かないうえ改憲論議への動きも鈍い。高市の支持基盤である保守派を意識し、まずは改憲ムードを高める狙いだ。

日本政治史においてパラダイムシフトがおこった例はいくつもある。戦前なら政友会による日本初の本格的政党内閣だった1918年の原敬内閣や、その後8年に及んだ二大政党制の最初となった24年の護憲3派の加藤高明内閣がそうだ。原敬の場合は属人的で暗殺されるとあとが続かなかったが、加藤高明の方は「憲政の常道」として5.15事件まで政友会と民政党が交代しながら政権を担当した。

戦後では左右社会党の統一が引き金となって自由党と民主党の保守合同により自民党が結成された55年だ。その後自民党は38年にわたり長期政権を維持し1955年体制といわれるようになった。

93年に誕生した非自民連立の細川護熙政権は戦後政治の大転換だったが、短命に終わった。自民党は社会党と組んで政権に復帰し、その後公明党との連立で延命した。

2009年の政権交代で民主党が政権を握ったものの12年にはまた自民党が政権を奪還。自民一強の時代を経て、24年に衆院で少数与党に転落、25年には参院でも与党が多数を失うなど、たびたびの政治変動を経て、現在にいたるが、今回の政治の枠組みが長続きするものになるのかどうかは疑問だ。

懸念は持病と日中関係の悪化

今の体制は「高市ブーム」というある種の政治的な熱狂によってもたらされたものだからだ。ブームがさめやすいのは論を俟たない。過去の政治的な熱狂をふりかえってみればそれは分かる。

戦前なら「新体制運動」の近衛文麿、戦後なら日本列島改造論をひっさげて登場した「今太閤」の田中角栄、新党ブームに乗った細川護熙、政権交代の鳩山由紀夫がその例だ。流行(はや)り物は廃(すた)り物。いずれも長続きはしていない。

「推し活」の高市が彼らと同列かどうかは分からないが、少なくとも有権者の人気を集め世論を追い風に政権維持にあたっていることだけは間違いない。

もうひとつ付け加えると高市自身に関節リウマチの持病があるのが懸念材料だ。総裁選出馬の際の記者会見で、診断が遅れたことで片脚が人工関節となっていることを明らかにした。昨年11月の衆院予算委員会では「何とか薬剤で進行を止めている」とも述べていた。大阪大学と中外製薬が共同開発した関節リウマチの治療薬を使用しているらしい。

ただ衆院選遊説中に握手で右手を痛め、一時的に症状が悪化、NHKの討論番組を欠席した。選挙後、都内の病院で検査と治療を受け「炎症と痛みが治まれば大丈夫とのことだった」と自身のX(旧ツイッター)に投稿、今のところは問題なく執務にあたっている。

健康問題に加え、政権のリスクは「外」にもある。台湾有事発言で悪化した日中関係が改善する兆しは見えない。米国とイスラエルによるイラン攻撃で中東情勢が緊迫、ホルムズ海峡の封鎖によって原油や液化天然ガス(LNG)の価格が高騰、物価高に拍車がかかる懸念も出ている。

権威主義国家である中ロ両国だけでなく、米国も国際法を無視するトランプ大統領の言動で世界中が混乱、新帝国主義の時代を迎えている。そんな中での「超一強政治」による「令和の富国強兵」。前途遼遠なりである。

(敬称略)

著者プロフィール

芹川洋一

政治コラムニスト

東京大学法学部卒業。日本経済新聞社で政治部長、論説委員長、論説フェローなどを歴任。東海大学客員教授。2019年度日本記者クラブ賞受賞。

  • はてなブックマークに追加