エレコム会長・葉田順治氏に聞く!/乳児院の赤ちゃんは泣かない/エレコム版「里親支援制度」も

2026年4月号 BUSINESS [リーダーに聞く!]

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1953年三重県熊野市生まれ。大学卒業後、木材市場に就職。 77年、実家の製材工場再建のため熊野市に戻る。86年エレコムを創業。94年社長。2013年東証一部上場。 21年3月期には「8期連続」連結純利益の過去最高を更新。21年より会長。24年、古里に児童養護施設「東紀州こどもの園」を寄付。

――衆院選挙で自民党が大勝しました。

葉田 高市早苗首相は議席の3分の2を確保し、安定した政権運営ができるでしょう。消費税減税では財源確保を議論していますが、消費喚起で税収を増やそうとしているのではないでしょうか。

――経済安全保障はどうあるべきですか。

葉田 海外勢は初期の安値攻勢やSNSを駆使した大々的な宣伝で日本の競合メーカーに対抗してきます。たくさん作っているうちに海外企業の品質が向上し、日本の産業基盤が崩されつつあります。日本政府は素材や半導体の分野で価格破壊を阻止し、何としても産業の空洞化を防ぐべきです。

高市政権は「責任ある積極財政」を掲げていますが、経済や食料安全保障の観点からは共感します。また、日本は様々な面で世界平和に貢献できると考えています。

一方で、名目GDPと実質GDPが四半期で20兆円以上乖離するなか、インフレがさらに加速するのではないか、また国家財政の面からも不安です。

――リチウムイオン電池内蔵のモバイルバッテリーによる発火事故が頻発するなか、エレコムは半固体タイプのリチウムイオンモバイルバッテリーを発売しました。

葉田 当社は安全性が高い世界初のナトリウムイオンモバイルバッテリーを発売し、「2025年日経優秀製品・サービス賞」の最優秀賞を受賞いたしました。2月には新たに燃えにくく、携帯性の高い半固体電池を採用したモバイルバッテリーを製品ラインアップに追加しました。他社に遅れての発売となりましたが、当社として初めて製品の買い替え目安がわかる機能を搭載しています。例えば、技術的には二千回充放電できる製品は、買い替え目安時期がわかるように501回で警告ランプが点灯するようにしました。日本メーカーとして安全・安心な製品開発に取り組んでいきます。

「児童養護施設だけでは不十分です」

――日本製造業の強みはどこにあり、日本製造業はどこを目指すべきでしょうか。

葉田 例えば産業用PCだと、一部の海外の競合企業は不具合が生じた場合、交換だけで済ませ、根本的な原因究明に向き合わないという話を聞きます。私たちは99.99%まで解析し、トラブル解消を目指します。

新製品の開発ではトレンドを重視します。スマートフォンやタブレットPCが出てきた時は「世の中が変わる」と確信し、「おはようございまスマートフォン」「お疲れ様でしタブレット」と唱えろと社員に言いました。誰も従いませんでしたが(笑)。

中国は毎年370万人とも言われるエンジニアを送り出して世界中から技術を吸収し、企業買収も駆使して、あっという間にキャッチアップしてきます。

当社は深圳に技術センターを構え、色々な要素を組み合わせた複雑系にしています。産業用のエンベデッド(組込型)に強いハギワラソリューションズなどのグループ化も進めてきました。PC周辺機器だけでなく美容家電、ヘルスケアなど多様な製品群を築きつつあります。

私はかつて温泉旅館を経営していたことがありますが、観光産業は付加価値を生むことが難しい業界です。日本は観光産業より、モノづくりでの強みを発揮すべきです。当社は、IT関連製品で「日本のモノづくり・技術の最後の砦となる」覚悟で経営しています。

――児童養護施設「東紀州こどもの園」(三重県熊野市)を寄付なさいました。

葉田 医師の三男が認定NPO法人を立ち上げ、発展途上国での医療活動に従事していました。触発された私は国内の子どもたちの課題に目を向け、乳児院を訪問し、数多くの赤ちゃんを目の当たりにし、涙が止まりませんでした。

乳児院の赤ちゃんは夜中に泣かないそうです。泣いてもあやしてもらえないから……。人生観が変わりました。

郷里の三重県木本町(現熊野市) で祖父、曾祖父、高祖父が3代続けて町長を務めていました。私も何か地元に貢献しようと考え、児童養護施設の寄付を決意しました。地元の豊富な木材資源を活用し、紀州材をふんだんに使った木造の施設にしようと決めました。木造建築と言えばこの方だと、設計を隈研吾さんにお願いし、24年に開所しました。子どもたちが「実家はどこ」と言われた時に「あそこだよ」と胸を張れる施設が目標です。

――上場企業初の従業員が里親になるためのエレコム版支援制度の創設を準備中と仄聞しました。

葉田 児童虐待が増えているなか、児童養護施設の収容人員だけでは不十分です。 当社は従業員を対象に「里親支援制度」を導入し、全ての子どもたちが「愛と家族」を得られるようにサポートします。

自治体の里親手当に加え、児童相談所などが実施する里親認定研修の受講開始時や、実際に里親認定を受ける際に支援金を支給します。児童相談所との面談や研修などに利用できるよう特別有給休暇制度も設けます。公的支援と合わせて里親になることへの経済的・心理的な負担を減らすことが目的です。

未来を担う子どもたちを社会全体で育てていくには、共働きなどで全員が働かねばならないという画一的な考え方も再考の機会となるかもしれません。里親の愛と家族団らんが日本を明るくします。

これらのことを考えるきっかけをくれた三男は現在、当社に入社して会社の病を治しつつあります(笑)。

「資本効率改善に囚われすぎです」

経営学の本を読むのが趣味と語る葉田会長

――経営学の本を多読なさると聞いています。その心は。

葉田 ピーター・ドラッカーやマイケル・ポーター、クレイトン・クリステンセンらの著書を片っ端から読みました。「まず成果をあげ、その後社会貢献すべき」と書いてありました。様々な場で講演する際も、ご来場される方々は社会貢献の話にとてもご関心をお持ちです。

主に中小企業の創業経営者から相談を受けると、「社会貢献をすると、同族会社が社会貢献の会社に変わるよ」と答えています。何より従業員と一緒にやることに意義があります。会社の全員が自分の会社に誇りを持てるようになるのです。

コーポレートガバナンスコードが改訂される予定ですが、企業は還元に偏重し目先の短期的な資本効率改善を重視しすぎて縮み志向になっていないか心配です。雇用を守って立派に社会貢献して成長している会社をもっと高く評価するべきです。

(聞き手/産業ジャーナリスト 竹田忍)

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