2026年4月号 BUSINESS

選挙応援に入る前に高市首相に面会した小池都知事(1月22日、内閣府動画より)
政府・与党が税収の東京一極集中の是正に乗り出した。大手企業が軒を連ねる東京都は豊富な税財源を誇り、独自の行政サービスを相次ぎ打ち出している。これに対し、隣接する神奈川、埼玉、千葉県の首都圏3県に加え、他の地方自治体は不満を募らせており、政府・与党は都が抱える税財源を地方に分配する方向で具体的な検討を始めた。
衆院選で大勝して第2次政権を発足させた高市早苗首相は、新たな閣僚指示書で林芳正総務相に対し、「地方創生に向けて税財源の偏在是正を目指す」よう求めた。
小池百合子都知事はこの方針に強く反発しており、自民党東京都連を味方につけて巻き返しに出つつある。両者の攻防が今後、一段と激化するのは避けられない情勢だ。
「東京を狙い撃ちにして、都の税収を一方的に収奪する地方税制の改悪、地方自治法の否定にほかならない。東京都としては断固反対せざるを得ない」――。
自民党と日本維新の会の与党が昨年12月にまとめた令和8年度税制改正大綱に対し、小池氏は定例記者会見の席上、珍しく血相を変えて激怒する様子を見せた。
この大綱では税収が集中する都がターゲットとなり、地方法人課税の一部を都から地方に配分する仕組みを拡充するほか、固定資産でも偏在是正を検討することが盛り込まれた。大綱を読んだ都幹部は「東京都に対する宣戦布告だ」と唇を噛んだ。
都の税収は右肩上がりの様相を示している。2025年度の税収は6.9兆円に達する見込みで、5年連続で過去最高を更新する勢い。このうち、主力の法人事業税と法人住民税を合わせた「地方法人2税」は2.5兆円にのぼる。法人事業税は国税の法人税と同様、法人の所得に応じて課税される。一方、法人住民税は法人の資本金などに応じて課せられ、本社や支店などの従業員数を考慮して税額が決められる。
都には日本を代表する大手企業が集中しており、都の地方法人2税も他の道府県よりも突出している。23年度は国内の地方法人2税の3割を都が占めた。最近では地方に本社を置く大手企業も都内に本社を移転するケースが多い。総務省の統計によると、資本金50億円以上の大手企業のうち、3分の2が東京都内に本社を構えている。さらにインターネット証券やネット通販業者の場合、地方に支店を持たず、都内の本社で利益を稼ぎ出しており、都に税収が集まりやすくなっている。
こうした潤沢な税収を背景に都は独自の行政サービスを次々と展開中だ。24年度には政府に先んじて高校授業料の無償化を打ち出し、所得制限も撤廃した。都民の子息が都外の高校に進学しても支援を受けられる仕組みとした。また、25年度からは0~2歳児の保育料が無償化され、子ども向け医療費の助成も拡大された。物価高対策でも昨年夏に続き、今年も夏場の水道基本料が無料化される。
特に小池知事は子ども・子育て支援に力を入れており、来年度予算の中で子ども関連の費用だけで約2兆円を計上している。総務省の地方財政審議会の報告では、税収が豊かな都は25年度時点で独自の施策に充てられる財源が人口1人当たり28.1万円だったが、他の道府県は平均7.8万円に過ぎない。強固な財政基盤に支えられた行政サービスを打ち出す都に対し、隣接する神奈川や埼玉、千葉の知事から「とても太刀打ちできない」と悲鳴が上がる。
このため、高市首相は林総務相への指示書の中で税財源の偏在是正を打ち出し、与党税制改正大綱に盛り込んだ措置の具体化を求めた。地方法人2税は地方法人税法、固定資産税は地方税法に基づいて徴収されており、税収配分を見直すには総務省所管の関連法の改正が必要となるからだ。これまでも都財源の配分見直しは実施され、2008年度の税制改正では「地方法人特別税」が創設された。これは法人事業税の半分程度を地方税から切り離して国税とし、地方交付税交付金として国が地方に配分する仕組みを導入した。
この後、政府が寄付金税制の一環で打ち出したのがふるさと納税である。地方と都市部の格差是正や人口減少対策として位置付けられ、当初は都市生活者が出身地の故郷に御礼の代わりに納税する仕組みとして導入された。その後、納税先の縛りがなくなり、返礼品競争が激化し、今では「官製カタログ通販」とも呼ばれている。24年度のふるさと納税による寄付額は前年度より約14%増加し、過去最多の1兆1200億円に達した。これに伴い、東京都の地方税収は2160億円の減少を記録したという。
ただ、ふるさと納税は米や果物などの農産品や牛肉など地元の特産品に特徴ある一部自治体に集中する傾向があり、多くの自治体には恩恵が及んでいない。このため、全国知事会は昨年、政府に対して税財源の偏在是正を求め、そうした不満が与党税制改正大綱や総務相に対する首相指示につながった格好だ。自民党関係者も都と地方都市における税収格差の拡大を憂慮しており、地方創生の観点からも具体的な偏在是正の検討を急いでいる。
今回の偏在是正で新たに浮上しているのが、固定資産税を巡る配分の見直しである。土地や建物、工場設備などを対象に課税する固定資産税の収入のうち、都に入るのは国内全体の25%にも上っているからだ。
政府関係者も「地価が高騰を続ける都と他の自治体で固定資産税の収入格差が急速に広がっている」と懸念を示しており、都の収入となる固定資産税をいかに地方に配分するかが大きな焦点となっている。すでに総務省内で具体的な検討を始めており、早ければ27年度から実施する方向だという。
こうした政府・与党の攻勢に対し、都は防戦に躍起となっている。そもそも小池知事は「是正すべき税収の偏在は存在しない」との立場を強調している。地方交付税も含めた各自治体の「一般財源」について、人口1人当たりの金額を見ると、都が23.8万円なのに対し、全国平均は22.9万円と同水準に収まっていると主張する。
また、これまでも都の法人事業税と法人住民税の一部を地方に分配する税制改正が行われたことで、小池知事は「年間で約1.6兆円が都から地方に分配されている」と不満を漏らす。
さらに都は政治力を使った巻き返しにも乗り出している。高市旋風が吹き荒れた先の衆院選では、高市政権の幹事長代理として、自民党の要を務める萩生田光一氏の地元・八王子での応援に小池知事が入り、有権者に支持を呼びかけた。萩生田氏は政治資金パーティーの一部収入を政治資金収支報告書に記載していなかった「裏金議員」として批判され、野党候補から激しい攻勢を受けていた。さらに地元の創価学会票は、衆院の立憲民主党と公明党が合流して新たに発足した中道改革連合に流れるため、萩生田氏は苦戦が予想されたが、高市旋風の影響もあって難なく当選を果たした。
実は小池氏はこの選挙応援に入る前の1月22日、首相官邸を訪ねて高市首相と会談している。その際に税財源の偏在是正を巡り、政府と都で会議体を創設することで合意したという。この会議体について、政府関係者は「双方が主張する都の税収に関する認識を共有したい」と語る。
これは小池氏が衆院選で自民党候補を応援する代わりに、偏在是正を巡って政府と直接協議する場を設けた形だ。政府と都の思惑は交錯しており、偏在是正の取り組みは今後も紆余曲折が予想される。